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第12話 身体も条件ですか

last update publish date: 2026-09-17 20:38:36

 燎は椅子の背にゆっくりと身を預けた。

 切れ長の目が、面白いものを見つけたように細くなる。

 私が答えに詰まるとは、少しも考えていない顔だった。

 その余裕が、腹立たしい。

「この患者に、問題はあるか」

 燎の問いに、莉乃が先に答えた。

「検査値はすべて正常です。問題ありません」

「このプロダクトは、正常値に隠れた異変を見つけるために作ったの。あなたは、その基本思想さえわかっていない」

 私がぴしゃりと言い切ると、莉乃の笑顔が消えた。

 正臣が、莉乃をかばうように口を挟んだ。

「灯里は、少し数字が変わっただけですぐ騒ぐ。家でも、食事の量や睡眠時間まで細かく口を出して、奏汰を息苦しくさせていました」

 奏汰が夜中に腹を押さえた姿が浮かんだ。

 受診する朝には痛みが消え、うまく説明できずに私の指だけを握っていた。

 あの夜を知らない二人に、私が神経質だっただけだとは言わせない。

 私は画面の二週間分を開いた。

「睡眠時間が短くなり、その翌日から食事量も少しずつ減っています。検査値はどれも正常範囲です。でも、この人のいつもの数値からは、ずれ始めている」

 
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  • 夫がメイドを私の名前で抱いた――すべてを奪われた元・天才医療研究者は、冷徹社長に溺愛される   第37話 俺が君を奪えば、君の人生は変わる

    「俺が君を奪えば、君の人生は変わる」  日付が変わる少し前、燎の私室で、私は唇に触れたままの親指を見た。  指の腹は少し硬く、触れられた場所だけが熱い。  顔を上げると、すぐ近くで目が合った。  まっすぐ通った鼻筋も、薄い唇も、嫌になるくらい好みだった。言われていることより、あの唇が気になってしまう。  でも、いちばん目を引くのは、その強い目だった。  私を見て、欲しいとためらわずに言う。手に入るかどうかを疑っている顔ではない。  この人なら、何度つまずいても立ち上がりそうだ。傷ついても、腹を立てても、また欲しいものへ手を伸ばす。  その強さが怖い。なのに、私を欲しがるこの目を、もっと近くで見ていたかった。 「一夜だけ俺のものになって、朝になれば元へ戻れると思うな」  親指が、濡れた唇をゆっくり拭う。 「君はまだ、その覚悟ができていない」  なんて傲慢な男だろう。  私の人生なのに、私より先に覚悟の有無を決めている。  腹が立つ。  けれど、間違っているとも言えなかった。  私はまだ正臣の妻だ。  離婚は成立していない。奏汰を連れて屋敷を出たばかりで、親権だってこれからどうなるかわからない。  今夜、燎に抱かれたことを正臣が知れば、必ず私から奏汰を奪うために使う。  今すぐ、抱いてと言いたかった。  身体はまだ、燎の手が戻ってくるのを待っている。ドレスの留め金に触れられた感覚を思い出すだけで、奥が疼いた。  でも、駄目だ。  頭では分かっている。  それでも、燎が欲しかった。  私の迷いを見抜かれたことより、欲しいのに手を伸ばせない自分の方が悔しい。  私は燎の手を唇から外した。 「嫌な男ね」 「知ってる」  燎が口元だけで笑った。  その余裕まで腹が立つ。  私は燎のネクタイをつかみ、強く引いた。  唇を重ねると、燎の笑みが消えた。  次の瞬間、後頭部を大きな手でつかまれる。  傾けられた顔に、燎の舌が深く入り込んだ。 「ん……っ」  濡れた唇が、かすかな音を立てる。  息を奪われるほど深く口づけられても、私はネクタイを離さなかった。  燎の舌を追うと、抱かれなかった身体の奥が、また熱く疼く。  このまま離れたくない。  そう思った自分ごと振り切るように、先に唇を離した。  燎の指

  • 夫がメイドを私の名前で抱いた――すべてを奪われた元・天才医療研究者は、冷徹社長に溺愛される   第36話 今夜は抱かない

    「連れていくよ」  正臣は、莉乃の髪をゆっくり撫でた。 「君がCARE-LINKを完成させるんだ。僕の隣で」 「でも、お義母さまは、正臣さまを会社から……」  正臣の指が止まった。 「母が決めることじゃない」  正臣は、代表を下ろされても、自分の影響まで消えるとは思っていないらしい。 「母が何を言っても、僕が連れていく。あの会社を大きくしたのは僕だ」 「私を、灯里として連れていってくださるんですか」  正臣が眉を寄せた。 「何を言っているんだ。君は灯里だろう」  莉乃は微笑み、正臣の胸へ頬を戻した。  明日からは、会社でも灯里になれる。 * * *  あのあと、燎は答えなかった。  柊吾が記者たちに囲まれて離れたあとも、燎の腕は私の腰に回ったままだった。 「燎」  呼ぶと、ようやく指の力が少し緩んだ。  けれど、腕は解かれない。  さっき柊吾へ向けた冷たい声が、まだ耳に残っている。  怖いはずなのに、離してほしいとは思わなかった。  私に触れるなと告げた燎の腕の中に、もう少しいたかった。 「あの人は、誰なの?」 「SENOVAを一緒に始めた男だ」  燎は柊吾が消えた扉を見ていた。 「俺が追い出した」  やはり、ただの知人ではなかった。  燎が誰かの名前を口にするだけで、あれほど声を冷たくする。  二人の間で壊れたものは、会社だけではない気がした。 「どうして?」 「守るべきものを、数字に変えたからだ」  それ以上、燎は言わなかった。  九年前も間に合わなかった。  柊吾の言葉が耳に残っている。  燎は九年前に、誰を守れなかったのだろう。  知りたい。  仕事のためではない。  燎のことだから、知りたかった。 「九年前に、何があったの?」  燎の視線が、私へ戻った。 「今話せば、あいつに言わされることになる。それが気に入らない」  今は話さない。でも、隠し続けるとは言わなかった。  その違いを、私は勝手に信じたくなった。 「帰るぞ」 「本邸へ?」 「ああ。今夜、君を一人にする気はない」  また勝手に決める。  腹を立てるべきなのに、「一人で帰す気はない」という言葉ばかりが残った。  けれど、パーティーで燎の腕を取ったのは私だ。  今夜も隣にいたいと思っているのも、私だっ

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